「企画書をデザインする」ということは、「凝ったデザインをする」ということではない。

——プレゼンテーションには2つの側面があると思います。1つは口頭でいかに説明するかということ、そしてもう1つがプレゼンシート、いわゆる企画書にどう落とし込むかということです。可士和さんはこの2つの側面をどのようにお考えですか?

しゃべるというのは言ってみればライブのようなものですよね。そのとき限り、一回だけのものです。だから企画書を朗読するようなプレゼンは意味がないので、その場の空気に応じてシートに書いてある特定の部分を強調したり、そこに至った背景や適性の説明を付け加えたり、また些末な部分は省略したりします。しかし、プレゼンシートは実際のプレゼン後もいろいろな人のところに回覧されたり社内の会議にかけられたりするものです。だから、僕の説明を聞いていなかった人にも内容がブレずに理解できるよう配慮して作成します。

——とはいえ、何でもかんでもすべてが詰め込まれている企画書というのも、決して親切なものとは言えませんよね?

そうですね。1枚のプレゼンシートにどれだけの情報量を盛り込むかというのはすごく大事なことだと思います。僕の場合、自分でプレゼンをすることはもちろんですが、プレゼンを受けることも少なくないんですね。そうした経験から言うと、必要以上にシートの枚数が多いのも困りものだし、かといって1枚にあまりたくさん詰め込むのもわかりにくい。口頭で説明することとシートに書くことの間合いをどう設定するか、1枚のシートにどれくらいのボリュームを持たせて合計何枚のシートで企画書を完成させるか……、こうしたことすべてが「プレゼンテーションをデザインする」ということなんだと思います。

——そういう意味では、プレゼンシートに自分の企画を定着させる以前から、もうデザインは始まっていると言えるかもしれませんね?

まさにそういうことです。今回のこのキャンペーンを手掛けることが決まってから、実はかなりの数のデザインテンプレートをダウンロードしてみたんです。でも、本当にいいものは残念ながら少ないと感じました。シンプルでセンスのいいものにはなかなか巡り会えませんでした。やはりデザインテンプレート=凝ったデザインでいかに企画を良くみせるかという考え方に根ざしてしまっているからでしょうね。

デザインとは情報の整理であって、全体の構造を設計することが何よりも重要。

——ということは、今回の可士和さんがデザインする「PowerPoint 2010」のテンプレートは、「見栄えのいいプレゼン資料とは?」ということに対して根本的な見直しを迫るものになりそうですね?

僕にとってのデザインとは、最終的なレイアウトのことだけを指すわけではないですからね。今回のコンセプトもまさにそこに置きたいと思っています。デザインとは情報の整理です。そもそも自分の頭の中で思考の整理がしっかりできていないと、結局はどんなテンプレートを使おうがいいプレゼンテーションにはならないと思うんです。どれだけシンプルな企画書としてまとめ上げられるかということが、そのプレゼンの良し悪しに大きく影響してくるんじゃないでしょうか?

——企画書を作成するとき、デザイン案はもちろんのこと、文章も可士和さんがすべて書くのですか?

もちろんです。プレゼン資料は決して流麗な文体を駆使することが目的ではないですから、常に簡潔かつ的確、そして無駄のない文章を書くように心掛けています。盛り込むことよりもそぎ落とすことのほうが大切ですから。これ以上少ないともう伝わらないというところまでシンプルにしています。

——現在制作中の「PowerPoint 2010」のテンプレートについて、もうちょっと具体的に教えていただけますか?

この段階であまりネタばれしてまうと面白くないので(笑)、最終的には完成形を見てもらいたいと思いますが、「こういう考え方でプレゼンをまとめればいいんだ」という思考のガイドになればいいと思っています。全体の構造を考えるということが何よりも重要なポイントですから。逆に言うと、企画を突き詰め切れていない状態でこのテンプレートを使ってもあまり役に立たないと思います(笑)。

過度な演出によって本筋がぼやけてしまうことはできる限り避けたいですね。

——可士和さんの普段のプレゼンテーションについてちょっと教えてください。どんなクライアントに対しても汎用的に用いる手法などはあったりしますか? それとも案件によってはトリッキーなアプローチを採用したりするのでしょうか?

あまり奇をてらったトリッキーなことはしませんが、状況によってかなりスタイルは変えていますね。例えば経営者の方と直接お話する場合は、企画書なしでしゃべりだけでプレゼンしたりします。見かけは手ぶらなんですが(笑)、その段階までにはお互いにやらなければならないことをほぼすべて共有できていることが多いし、トップと話すということはそれを直接伝えて確認できるということですから。余計なことをする必要がまったくないんですね。

——それも実はプレゼンテーションの1つの形態なんですね?

ケースバイケースというか、本当に臨機応変ですね。SAMURAIのこの机の上にデザイン案をすべて並べておく場合もあるし、プロジェクターを使ってストーリー重視で説明することもある。たくさんの人たちと情報を共有しなければいけないときはプレゼンシートを時間をかけて入念に作ります。決め込んだ案を出すときもあれば、わざと手書きで提示するときもある。

——本当に変幻自在ですね。でも、それもアプローチを変えることが目的ではないわけですよね?

そうなんです。無理に手法を変えようとしているわけではなくて、僕が感じたり考えたりしていることを、いちばん効果的に伝えられる方法を状況に応じて選んでいるというだけですね。だからプレゼンテーションに関してよく言われる「演出」という言葉も、個人的にはちょっと違うのかなぁという気がしています。一般にアメリカ人はプレゼンがうまいとかよく言われるじゃないですか? あたかもエンターテインメントのようだと。でも、僕にとってのプレゼンはもっとシリアスかつ厳密なものです。過度な演出によって本筋がぼやけてしまうことはできる限り避けたいと思っています。

——巷でよく言われる「プレゼン術」などの文脈からすると、可士和さんのそうしたお話を意外なこととして受け止める人も多いんじゃないですか?

そうかもしれません。実際、「どうやって自分の企画を通しているんですか?」とよく聞かれることがあります。でも、自分としては「何としてもこの企画を通してやる!」というような意識はほとんどないんですね。「僕の考えていることとあなた方の考えていることは、ズレてないですか?」というプロセスがプレゼンテーションだと思っていますから。

——プレゼン=説得術という、よくある考え方とは正反対の作業ですね?

他人から強引に説き伏せられたことって、やっぱりどこか納得し切れない部分を残しますから、結局いつか破綻するんじゃないかと思います。だから僕は「相手を説得する」という姿勢でプレゼンをしたことはないんですね。今回の「PowerPoint 2010」のためのテンプレート制作も、そうした考え方を基本に据えています。繰り返しになりますが、僕が理想とするテンプレートは練り切れていない企画をよく見えるようにするためのものではないし、見栄えのいいレイアウトパターンを提示することでもありません。思考の整理のサポートになればいいと思っています。

佐藤可士和 Kashiwa Sato

1965年東京生まれ。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年クリエイティブスタジオ「サムライ」設立。主な仕事に、スマップなどミュージシャンのアートワーク、NTT DoCoMo「FOMA N703iD」「キッズケータイ」のプロダクトデザイン、ユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクション、ファーストリテイリングのCI、幼稚園のリニューアルプロジェクト、国立新美術館のシンボルマークとサイン計画など。ブランディングプロジェクトを手がける明治学院大学では、2007年4月より客員教授に就任。最近では初の絵本「しょうちゃんとちきゅうくん〜ずっといっしょにいたいね〜」(ポプラ社)の執筆も。